酸っぱいブドウ/ハリネズミ(一般)

2018年09月02日

所蔵情報

ザカリーヤー・ターミル 著/白水社

 ~日常の裏側にある、かもしれない空想の町~

 日本ではあまり出版されない現代シリアの小説です。59の物語が詰まった『酸っぱいブドウ』と、6歳のボクが主人公の『はりねずみ』。幽霊と語らったり、誤解が誤解を生んだり、星新一のショートショートに通じるコミカルな部分もありますが、意味もなく人が死んだり、動物に変身したり、さらりと不気味な世界が描かれています。ある意味で親近感さえ覚える人間の裏側ばかりの日常の中で、人々は生き生きと動き回っています。イスラム教への厳格さのイメージは、固定観念であったのだと思い知らされました。随所に現れるコーランの引用や、固有名詞に、異国情緒の香りが効いています。アラビア語から直接日本語に翻訳されているところも、読みやすさの一因です。

(島根日日新聞 2018年10月15日掲載)